第4章「見えざる帳簿の中に潜む者」
「サトコ。君は、“お金の出どころ”について、
どこまで知っているかね?」
放課後の教室。
窓から差し込む夕陽に照らされながら、
宮城先生は静かに語りかけてきた。
「政府が税金で集めたお金で予算を組んで、
足りない分を国債でまかなう……そう教わりました」
「そうだな。だが、
それは“表向きのストーリー”に過ぎないんだよ」
そう言って、先生は机の上に古びた資料の束を置いた。
そこには、“借金”と呼ばれる数字の裏に隠された、
本当の帳簿のような情報が並んでいた。
「通貨を発行しているのは、実は政府ではない。
発行しているのは“日本銀行”――だが、
その日銀は政府の機関ではなく、
株式を持つ民間の存在が支配している。
つまり、“中央銀行”という名前の、私的な銀行なんだ」
「え……。でも、日銀って国のものでしょ?」
「多くの人がそう思っている。
だが、実際には違う。
必要なときは“政府の子会社”のように振る舞い、
責任が問われると“独立した存在”を主張する。
この“ダブルスタンダード”こそが、詐術の本質なんだよ」
「……じゃあ、国債っていうのは?」
「国債とは、政府が日銀などの民間金融機関に対して
発行する“借用証書”に過ぎない。
それを“国民の税金”で返すよう仕組まれている。
つまり、中央銀行に通貨発行を委ねたがゆえに、
政府は“お金を借りる立場”にされているんだ」
サトコの表情がこわばった。
「それって……政府は、お金を作れないんですか?」
「その通りだ。実は、政府には“通貨発行権”は無い。
そして今流行りのMMT――現代貨幣理論も、
表向きは“財政破綻しない安心”を謳っているが、
裏では、“永遠に借金を続けさせる仕組み”として
機能しているかもしれない」
「つまり……通貨を生み出す力を失った政府は、
民間にコントロールされている?」
「その構造に氣づくことが、大切なんだ。
“財政赤字”とは、
国民の資産を“借金”にすり替える魔法でもある。
そして、その帳簿の裏には、いつも“真実”が隠れている」
「良さげに見えるものには、必ず裏がある……ですね」
「そう、サトコ。君ならきっと、見抜ける。
この仕組みは、まるで霧の中の迷路のようだが、
真理の光を持てば、どんな霧も晴らせる」
春の夕空に包まれながら、
サトコの中に、新たな確信が芽生えつつあった。
“帳簿の向こう側”を見通す目が、
ゆっくりと開かれていく。
つづく。
第5章