第1章:サトコの疑問

サトコの目覚め

第1章:サトコの疑問

サトコは、春の風に髪をなびかせながら、公園のベンチに腰を下ろしていた。

小さなノートを開き、何かを考え込むように、じっと見つめている。

そのまなざしの奥には、少女のものとは思えないほど鋭い問いがあった。

「どうして……政治家って、あんなに自由なの?」

彼女の口から漏れたその言葉は、春の陽射しの中で淡く消えていった。

サトコは中学生。けれど、ニュースを見るのが好きで、大人たちの会話にもよく耳を傾けている。

最近、気になってしかたがないことがいくつもあった。

── なぜ、多くの政治家は脱税しても許されるのか?

── なぜ、日本の政治家の年収は、他国の何倍もあるのに、国民のための実感がまったくないのか?

── なぜ、国内の苦しんでいる人たちを差し置いて、海外支援ばかりしているのか?

── なぜ、税金の無駄遣いや不明な使途があっても、誰も本氣で是正しようとしないのか?

「なんでこんなに“おかしいこと”が、堂々とまかり通ってるの?」

ノートに鉛筆を走らせながら、サトコはふと顔を上げた。

空はあくまで青く、花々は美しく咲き誇っている。

世界は一見、穏やかで、平和に見えた。

けれど、サトコには感じていた。

この社会には“見えない網”が張り巡らされていて、人々の目と心を覆っている。

それは、テレビやニュース、学校の教科書の中にも忍び込んでいる“常識”という名前のフィルター。

「お金って、本當はどういうふうに生まれてるんだろう」

「税金って、私たちが“義務”として払ってるけど、それってほんとうに必要なの?」

「国の借金っていうけど、それって一体、誰から借りてるの?」

サトコの疑問は、いつのまにか“政治家”の問題を越えていた。

それは、国家というものの構造や、“財政”という大人の世界に向かい始めていた。

ちょうどそのとき、横にいた宮城先生が、小さくうなずいた。

彼はかつて、サトコの小学校の担任だった人物。定年を迎えた今も、サトコの良き師であり、相談相手だった。

「サトコ、お前の疑問は、すごく大切なことに触れてるよ」

「ほんとうですか?」

「あぁ。ただ、“表”で語られることと、“裏”で起きていることが違う世界だから、正しい情報にたどり着くには、“心の目”が要る」

「心の目……?」

宮城先生はにっこりと笑いながら、春風に手をかざす。

「この氣を感じるように、自分の内側にある“違和感”を信じていい。

政治の世界も、財政も、ただ難しい言葉で覆い隠されているだけで、ほんとうはシンプルな構造なんだよ」

「だったら……知りたいです。全部、ちゃんと知って、自分の目で見極められるようになりたい!」

その決意に、宮城先生はゆっくりうなずいた。

「よし。それじゃあ、順を追って話していこう。

まずは“税金”ってなんのためにあるのか……そこから始めようか」

風がまた、春の香りを運んできた。

サトコの物語が、いま動き始めた。

つづく。
第2章

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