『見えざる網を解く少女』第6章 ― 混沌の時代を整える ―

サトコの目覚め

第6章 ― 混沌の時代を整える ―

世界は今、静かに、
しかし確実に変動の渦の中にある。

恐怖、不安、そして分断——。

誰かが意図的に振り撒いているかのように、
これらの感情が社会を覆い、
互いに疑心暗鬼となり、争いが絶えない。

その原因の多くが、
実は「道具」の使い方にあるのではないか——。

「マネー」もまた、
人間が生み出した道具の一つにすぎない。

それにもかかわらず、
現代人はその道具に支配されてしまっている。
まるで、それが目的そのものであるかのように。

「道具とは、本来、目的を達成するための
“手段”にすぎないのに…」

と、宮城先生は静かに語った。

「道具に心を囚われてはイケナイ。
たとえば、ナイフは料理にも使えるし、
人を傷つけることもできる。
それをどう使うかは、使う人間次第じゃな」

この言葉が、サトコの胸に深く刻まれた。

日常の中でも、
氣づかぬうちに恐怖に心を乗っ取られている場面がある。
たとえば、またしても
パンデミックが起こるかもしれないという噂。

人々は情報に反応し、
マスクや消毒液を求めて奔走し、
不安を共有しながら、
冷静さを失っていく。
だがその裏には、
私たちの“心”の隙を突く策略が存在するのではないか。

「注射だけがワクチンではないよ」

先生はそう言って、小さな箱を差し出した。


その中には、遺伝子組み換えされた野菜の写真があった。

「見た目は同じ。でも、中身が違う。
しかもその中身に、
人の遺伝子に作用する成分が
加えられているとしたら…どうなる?」

サトコは息を呑んだ。

「そんなの…氣づけない…」

「だからこそ、『整える』ことが大事なんじゃよ」

宮城先生の目は優しかったが、言葉は鋭かった。

「心と体を整えなければ、氣づけない。
氣づけなければ、守れない。
自分も、大切な人も——」

社会全体もまた、整えられなければならない。

政治も、経済も、教育も。

もはや他人任せにできる時代ではない。

一人ひとりが、自らの足で立ち、真実を見抜く目と、
しなやかな心で整えていかなければ、
支配の罠にからめ取られてしまう。

「でも、どうやって整えるんだろう?」

サトコの問いに、先生は静かに答えた。

「まず、毎日を丁寧に生きることじゃな。
呼吸を整え、食事を整え、意識を整える。

原点回帰、とはそういうこと。
人としての“基本”を思い出すことなんじゃよ」

道具に心を奪われず、流されず、惑わされない。

サトコは、先生の言葉を反芻しながら、
自分の内側で何かが静かに整っていくのを感じていた。

つづく。
第7章

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