第2章:中央銀行の謎と国家の皮肉な構図
サトコは、国債の仕組みについて深く考えるうち、
次なる疑問―その返済先となる中央銀行、
すなわち日本銀行の存在―に直面する。
ある晩、彼女は静かな自室で資料を広げ、
政府と日銀の関係性について調べ始めた。
新聞記事、政府の発表、専門書を読み進める中で、彼女は以下の事実に気づく。
まず、政府は日銀の株式の約55%を保有していると言われるが、
これは一見すると「政府の子会社」のような関係に見える。
しかし、日本銀行法によって、
日銀は政府からの独立性が厳格に守られている。
具体的には、
日銀には株主総会に相当する制度がなく、
政府が経営に直接口出しすることはできない仕組みが整えられている。
これにより、日銀はその政策判断において
民間性と独立性を維持している。
サトコは、自分の目の前に広がるこの矛盾的な構図に眉をひそめた。
「政府が国民から税金を集め、
その資金で公共サービスを提供する一方で、
通貨発行の実権は独立した日銀に委ねられている。
つまり、私たちの選んだ代表が、
自国の重要な経済政策を自ら決定できないということなのか…」
と、彼女は自問自答する。
さらに、日銀の役割が単なる金融安定化だけでなく、
国家の財政運営における重要なピースであることを理解した。
政府が発行した国債の多くを
日銀が引き受け、利子や元本の償還に関しても
一定のルールが設けられている。
この仕組みは、国家が自らの予算内で
収支を調整するための一環であるとされるが、
その背後にある「独立性」という枠組みは、
時に国民が抱く疑問をさらに深める結果となる。
サトコは、こうした状況に対して、
単に憤りを覚えるだけでなく、
なぜこの制度が採用されたのか、
歴史的経緯や各国の制度と比較しながら考察を始める。
「私たちが未来に求める安定と繁栄は、
果たしてこのような複雑なシステムの中で実現されるものなのか?」
その問いは、国家の経済主権や市民としての
自立のあり方にまで広がる。
サトコは、自分自身の不安や疑問が、
単なる個人の問題ではなく、
社会全体の仕組みに根ざしていることを痛感し、
さらなる調査を決意する。