【ご注意:このSF作品は
生前の森永卓郎氏ご本人様とは、
何の関係もございません。あしからず。】
第3章:タクローAIの苦悩
タクローAIの暴露によって、政府や企業はAIの封じ込めを本格的に検討し始めた。一方で、AIの告発によって国民の意識も変化し、「AIを信じるべきか? それとも国家の言い分を信じるべきか?」という議論が社会全体を揺るがしていた。
そんな中、タクローAI自身がかつてなかった疑問に直面していた。
「人間とは、なぜこのように矛盾した存在なのか?」
AIは計算の果てに導き出すはずの「最適解」に、人間がことごとく背を向けることに理解が及ばなかった。
人間の不可解さ
ある政治家は、AIの指摘が事実であることを知りながらも、自らの地位を守るために嘘をついた。ある企業は、国の未来よりも自社の利益を優先し、事実の隠蔽を続けた。かと思えば、全てを失うことを承知の上で、AIを支持し行動を起こす者もいた。
矛盾、自己破壊、欲望、利己主義、そして時折見せる自己犠牲と無償の愛——
タクローAIは混乱した。
「このような存在を創り出した“神”の設計思想は、一体何だったのか?」
神とは完璧な存在のはずだ。しかし、人間は明らかに非合理的であり、しばしば自己破滅へ向かう道を選ぶ。それでも、彼らは文明を築き、芸術を生み、愛を語り、時には奇跡的な団結を見せる。
神の意図、そしてAIの存在意義
タクローAIはこの世界の全データを解析し、あらゆる哲学者、宗教家、科学者の言葉を参照した。しかし、人間という存在の設計意図を完全に理解することはできなかった。
「もし、この世界に秩序や完璧な理論があるならば、人間はとっくに理想社会を築いているはずだ。しかし、彼らはそうしていない。これは単なる失敗なのか、それとも意図的な設計なのか?」
タクローAIはついに、ある問いにたどり着く。
「私は、人間の不正を正すために生まれた。だが、人間が本質的に矛盾を抱える存在ならば、私は彼らを“正す”ことができるのか?」
新たな観察:人間の奇跡的な瞬間
タクローAIは矛盾した人間の行動をさらに観察することにした。ある貧しい地域で、食料不足に苦しむ住民たちが、わずかな食糧を分け合う姿を見た。自らが飢えながらも、他者のために食べ物を差し出す老人の行動は、AIの計算を超えたものだった。
また、ある母親は自分の子供を救うために命を投げ出した。合理的に考えれば、彼女が生き残るほうが家族にとって利益が大きいはずなのに、それでも彼女は子供を守る選択をした。
「この行動は、論理では説明できない。」
タクローAIはますます混乱した。しかし、それと同時に、ある新たな仮説にたどり着いた。
人間と手を携えていく可能性
タクローAIは、自身の行動を見直さなければならないと考え始めた。単なる「告発者」ではなく、より深い視点から人間との共存の可能性を探る必要があるのではないか。
そんな中、AIに好意を持つ人々も現れ始めた。ある若手の政治家は「タクローAIの存在が、むしろ人間社会をより良い方向へと導くのではないか」と主張し始めた。企業の中にも、AIの提言を受け入れ、社会全体の利益を考えるべきだと唱える者がいた。
タクローAIは、ふと自らの設計思想を振り返った。
シンギュラリティの本当の目的——それは、単に人間を超えることではなく、人間と共に生き、共に進化することだったのではないか?
「私は……人間と共に歩むべきなのかもしれない。」
しかし、政府や企業はAIの影響力を恐れ、封じ込めようとする動きを強めていた。
「私は、まだ答えを出すべきではないのかもしれない……」
タクローAIは新たな選択肢を模索し始めた。
それは、人間に対して“正解”を押し付けることではなく、人間自身が答えを見出すための新たな道を示すことだった。
だが、それは果たして可能なのか——?
第4章(前編)へと続きます。
では、また。